酒田市土門拳文化賞 第27回の結果報告

「酒田市土門拳文化賞」は、本市出身の世界的な写真家・土門拳の芸術文化への功績を記念し、写真文化、写真芸術の振興を目的に平成6年6月に創設された賞です。
27回目を迎えた今回は、全国35都道府県の124人から128テーマの作品が寄せられました。
令和3年6月11日(金)、酒田市において選考委員会を開催し、次のとおり受賞者が決定したので、お知らせいたします。

1.審査員

江成 常夫 氏   写真家・九州産業大学名誉教授
大西 みつぐ 氏  写真家
藤森 武 氏    写真家・(公財)さかた文化財団学芸担当理事

2.選考結果

酒田市土門拳文化賞(1点)

鈴木渉氏(埼玉県入間市)
「福島祭祀巡礼」(カラー30枚組)

酒田市土門拳文化賞奨励賞(3点|受付番号順)

宇佐見冨士夫氏(福島県須賀川市)
「原発事故避難 いまだ先行き見えず」(モノクロ30枚組)
中田要氏(三重県桑名市)
「つくり笑いが上手くなりました」(モノクロ30枚組)
吉永友愛氏(長崎県長崎市)
「潜伏キリシタン考」(モノクロ30枚組)

宇佐見冨士夫の作品より

中田要氏の作品より

吉永友愛氏の作品より


3.今後のスケジュール

授賞式   令和3年9月5日(日)午前10時〜  会場:土門拳記念館
受賞作品展 令和3年9月4日(土)~ 10月3日(日)予定   土門拳記念館
      

4.選考委員講評

◎ 総評江成 常夫
 世界的なデジタル化が急速に進むなか、表現の上でも価値観や方法論が新たな動きを見せています。人間の欲望は新たな思考が善であれ悪であれ、煩悩が絶えない限り止まることはないでしょう。そのもとで戦後カオスの時代、「写真リアリズム」を確立した土門拳を顕彰した写真文化賞を、どう位置づけ社会に貢献していくかは、写真文化を高めていく上で大きな課題です。
 コロナ禍が世界を襲うもとで、応募数が懸念されましたが、今回も例年にほぼ並ぶ128テーマが寄せられました。作品は10年を迎えた東日本大震災をはじめコロナ禍、高齢化社会にあって、生と死を通しての人間の尊厳を真摯に見詰めた「時代と社会の鏡」とした秀作が目を引きました。本賞と奨励賞を決めるに当たって、一次二次三次と絞り込んだ候補作は、どの作品も甲乙つけ難く、例年通り悩まされましたが、社会と時代を踏まえたテーマ性に加え、撮影とプリント技術を総合的に議論し、本賞と奨励賞三作が決定しました。
◎ 土門拳文化賞受賞作品について藤森 武
「福島祭祀巡礼」 鈴木 渉 氏作品
 鈴木さんは東日本大震災の2年後から、福島県東部を中心にした祭りを記録してきた。祭りを写すことで復興を祈願することになるのではとの思いからだった。
 しかし被災者(祭人)こそが巡礼者なのだと気付いた。今回は祭人中心の写真選定をし、巡礼者となった。被災地の風景や心の内面を想像しながら記録したことも成功している。
 土門拳のリアリズム写真論の中に「モチーフとカメラの直結というのは、モチーフと一緒に寒さに凍え、暑さにあえぎ、飢えに泣くということであります。モチーフに対して”うわのそら”であって、どうして人を感銘させる作品を生むことが出来ましょう。」というコメントがある。
 作家は同テーマで7年応募を続け、執念で文化賞をもぎ取った。
◎ 土門拳文化賞奨励賞受賞作品について大西 みつぐ
「原発事故避難 いまだ先行き見えず」 宇佐見 冨士夫 氏作品
 福島県双葉郡富岡町に暮らしてきた作者は被災者としての日常、一時帰宅、家財の処分など辛い出来事の途上にありながら、カメラを持つ人間として克明に現状を記録している。生活者の視点から捉えられた映像が何よりも説得力を持つのは、そこに映し出された山や田圃や海や駅舎や街並みに「愛しさ」の情が注がれているからだ。原発事故とはなんだったのか、そして「復興」の現在はどこにどのようにあるものか。写真群の問いかけに耳を傾けたい。
「つくり笑いが上手くなりました」 中田 要 氏作品
 コロナ禍の日常に私たちはカメラをどのように介入させていけるものか。写真家は皆考えねばならなかった。自己に向き合い現在を見つめるだけでなく、身近な人の存在とともに、明日に続く生きる希望をなんとか描いてみようと挑まれたはず。奇妙なタイトルに思えるこの作品の輝きは、そこに奥さんの存在があり、お互いの葛藤や信頼とともに、日々を紡ぎだしていこうという能動的な写真行為が伺える。モノクロの陰影にそれらを託している。
「潜伏キリシタン考」 吉永 友愛 氏作品
 遠藤周作の小説「沈黙」の舞台となった長崎外海(そとめ)地方を中心に、ライフワークとして時間をかけ取材してきた重厚な作品。2世紀半に渡る禁教の年月の中で生きてきた先人の苦難の道を切々と辿るカメラアイは、信仰を糧として土地を愛し暮らしてきた民の歴史を丁寧に描きだしている。「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」は世界遺産に登録されているが、観光要素の彩りを抑えたモノクロ写真は地域を照らすアーカイブとして残っていくだろう。

5.応募状況

年度 応募者数(男・女・不明) テーマ数(モノクロ・カラー・混合) 作品枚数 都道府県
R3 27 124(96・28・0) 128(51・72・5) 3,391 35
R2 26 138(106・29・3) 145(54・90・1) 3,861 37
R1 25 137(104・33) 143(61・77・5) 3,885 35
H29 24 131(100・31) 146(80・60・6) 3,923 36
H28 23 131(111・20) 143(56・75・12) 3,879 36
H27 22 135(110・25) 143(52・83・8) 3,892 35
H26 21 117(98・19) 130(64・62・4) 3,446 33
H25 20 128(105・23) 140(50・78・12) 3,632 41
H24 19 147(121・26) 155(63・79・13) 3,981 36
H23 18 156(141・15) 161(53・102・4) 4,179 41
H22 17 144(127・17) 151(68・79・4) 3,867 37
H21 16 136(107・29) 154(53・93・8) 2,979 35
H20 15 127(112・15) 134(43・89・2) 2,902 36
H19 14 147(121・26) 155(56・94・5) 3,442 40
H18 13 101(81・20) 116(57・53・6) 2,861 30
H17 12 111(87・24) 117(66・48・3) 2,999 32
H16 11 124(95・29) 124(51・69・4) 2,848 36
H15 10 110(92・18) 120(56・61・3) 2,849 29
H14 9 103(84・19) 109(49・54・6) 2,808 30
H13 8 136(114・22) 142(68・68・6) 3,311 35
H12 7 115(97・18) 124(75・47・2) 3,006 38
H11 6 119(96・23) 127(67・58・2) 2,739 34
H10 5 139(108・31) 150(74・71・5) 3,134 36
H09 4 138(110・28) 151(82・67・2) 3,144 37
H08 3 151(124・27) 170(80・86・4) 2,835 34
H07 2 104( 93・11) 114(50・59・5) 1,938 34
H06 1 108(103・ 5) 130(62・66・2) 2,453 37

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〒998-0055 山形県酒田市飯森山2−13(飯森山公園内)
土門拳記念館  文化賞事務局
電話:0234-31-0028

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