酒田市土門拳文化賞 第30回の結果報告

「酒田市土門拳文化賞」は、本市出身の世界的な写真家・土門拳の芸術文化への功績を記念し、写真文化、写真芸術の振興を目的に平成6年6月に創設された賞です。
30回目を迎えた今回は、全国36都道府県の108人から117テーマの作品が寄せられました。
令和6年6月7日(金)、酒田市において選考委員会を開催し、次のとおり受賞者が決定したので、お知らせいたします。

1.選考委員

江成 常夫 氏   写真家・九州産業大学名誉教授・(公財)さかた文化財団名誉顧問
大西 みつぐ 氏  写真家
藤森 武 氏    写真家・(公財)さかた文化財団学芸担当理事

2.選考結果

酒田市土門拳文化賞(1点)

宮崎 豊 氏(大阪府大阪市)
「新世界に咲く紅い花・コロナ禍を経て」(カラー30枚組)

酒田市土門拳文化賞奨励賞(3点|受付番号順)

新海 裕幸 氏(愛知県阿久比町)
「輪廻~めぐる日々の記憶~」(カラー30枚組)
岡田 治 氏(和歌山県田辺市)
「痕跡」(モノクロ30枚組)
松本 アキラ 氏(神奈川県横須賀市)
「方寸の欠片」(モノクロ30枚組)

新海裕幸氏の作品より

岡田治氏の作品より

松本アキラ氏の作品より


3.今後のスケジュール

授賞式   令和6年9月7日(土)午前10時〜  会場:土門拳記念館
受賞作品展 令和6年8月30日(金)~ 9月24日(火)     土門拳記念館
      令和6年11月12日(火)~ 11月25日(月)   ニコンプラザ東京 THE GALLERY
      令和6年12月5日(木)~ 12月18日(水)   ニコンプラザ大阪 THE GALLERY

4.選考委員講評

◎ 総評江成 常夫

 文学、絵画、写真――。いずれの表現分野であれ「賞」の価値づけや社会的評価は、長年積み重ねられた優れた作品の集積にほかなりません。今年三十回を迎えた「土門拳文化賞」は記録による新たな地平の開拓と”プロへの登竜門”の謳い文句が広く浸透し、わが国アマチュア写真界に不動の地位を築くに至っています。これも古くからの銀塩写真がデジタル化したことに加え、「文化賞」の栄冠を目指し努めている皆さんと女性の写真愛好家がグーンと増え、写真の世界を豊かにしているから、とも言えるでしょう。

 折しも国内では政界のスキャンダルはじめ、命の軽視に象徴される社会病理が日常化し、国外では核兵器を盾にした専制政治がまかり通り、明日の世界を危うくしています。こうした中、今回寄せられた作品は少子高齢化のもと、若人が消えた限界集落と人が渦巻く大都市。過疎と過密、両者が描き出す人間劇を通し、命の尊厳や輪廻を視覚化した完成度の高い作品が眼を引きました。確かにそれも進行する現実を記憶に留める写真の役目であり正論です。
 ただ、ウクライナやパレスチナ自治区での飽くなき殺戮の、先行きが見えない中、新聞、テレビが伝えるように、来年はこの国が未曽有の過ちを犯した敗戦から、八十年の節目に当たります。そうした時、あえて付け加えれば、写真には進行する時を止めるだけでなく、過去の歴史を呼び戻す力と役割があります。それを思えば太平洋戦争の戦禍を見詰めた、岡田治さんの作『痕跡』は、「文化賞」三十年節目の、一つの収穫と言えると思います。
 
 
◎ 土門拳文化賞受賞作品について藤森 武
「新世界に咲く紅い花・コロナ禍を経て」 宮崎 豊 氏作品

 大阪・下町の「通天閣」を中心とした庶民の「新世界」。そこに生きる人々は、人情味にあふれ、本音で生きているという。

 30枚の組み写真のうち、多くが性的マイノリティの人々を写している。

 選考委員として一番心配した点は写真の肖像権問題である。

 しかし全く問題ないとのこと。被写体の方から「写真を撮ってほしい」との事。この被写体を写した地元大阪の宮崎さんとその人柄だからこそ写せたものであろう。

 ごく普通に写したドキュメンタリー写真であり「絶対非演出の絶対スナップ」である。

 撮影した時季はコロナ禍の真最中であったと思うが、どの写真にも1枚としてマスク姿の人が写っていない。

◎ 土門拳文化賞奨励賞受賞作品について大西 みつぐ
「輪廻~めぐる日々の記憶~」 新海 裕幸 氏作品
 人は歳を重ねることで、本来の穏やかな日々を期待し無事を祈っていくもの。しかしながら、私憤や義憤の行方いかんによっては心の充足は得られないこともある。日々をゆっくり歩み続ける作者は、前作同様、自己を映し出す鏡としてカメラを率直に機能させ、それぞれの写真を縦糸と横糸の関係のように丹念に織り込み、普遍的な物語へと昇華させている。それらは今を大切に生きることへの大きなメッセージだ。プリントの美しさと相まって表現としての充足感がうかがえる。
「痕跡」 岡田 治 氏作品
 やがて敗戦80年を迎える。かつて紀伊半島沿岸は連合国軍機の侵入経路であったことから、様々な施設が配備されたようだが、それらの戦争遺跡は空間として埋もれるばかりでなく、人々の記憶からも遠いものになろうとしている。作者が記すように「過去の歴史から学ぶ」という大事な観点は写真というメディアを率直に用いることで、現在を照射し未来を映し出していくはずだ。これまでの地道な取材作業はさらなる継続をもってして、写真の密度を豊かなものにしていくだろう。
「方寸の欠片」 松本 アキラ 氏作品

 写真は断片であり、その集積作業は長い時間を必要とし、取捨選択の中から「本質」を探り出すといった地道な行為ともいえよう。作者のポケットの中に詰め込まれた混沌は、まさにこの時代の魑魅魍魎であり、政治経済などの諸問題と決して無縁なものではない。むしろ鋭い身体性のもとに撮られたノイジーで必要以上の「質感」がコロナ禍の数年の状況を露わにしているといってよいだろう。方寸(スクエア)サイズの写真の特性をうまく活かした作品である。

5.応募状況

年度 応募者数(男・女・不明) テーマ数(モノクロ・カラー・混合) 作品枚数 都道府県
R6 30 108(83・22・3) 117(54・63・0) 3,137 36
R5 29 102(77・25・0) 108(54・54・0) 2,924 39
R4 28 106(87・16・3) 116(52・62・2) 3,052 35
R3 27 124(96・28・0) 128(51・72・5) 3,391 35
R2 26 138(106・29・3) 145(54・90・1) 3,861 37
R元 25 137(104・33) 143(61・77・5) 3,885 35
H29 24 131(100・31) 146(80・60・6) 3,923 36
H28 23 131(111・20) 143(56・75・12) 3,879 36
H27 22 135(110・25) 143(52・83・8) 3,892 35
H26 21 117(98・19) 130(64・62・4) 3,446 33
H25 20 128(105・23) 140(50・78・12) 3,632 41
H24 19 147(121・26) 155(63・79・13) 3,981 36
H23 18 156(141・15) 161(53・102・6) 4,179 41
H22 17 144(127・17) 151(68・79・4) 3,867 37
H21 16 136(107・29) 154(53・93・8) 2,979 35
H20 15 127(112・15) 134(43・89・2) 2,902 36
H19 14 147(121・26) 155(56・94・5) 3,442 40
H18 13 101(81・20) 116(57・53・6) 2,861 30
H17 12 111(87・24) 117(66・48・3) 2,999 32
H16 11 124(95・29) 124(51・69・4) 2,848 36
H15 10 110(92・18) 120(56・61・3) 2,849 29
H14 9 103(84・19) 109(49・54・6) 2,808 30
H13 8 136(114・22) 142(68・68・6) 3,311 35
H12 7 115(97・18) 124(75・47・2) 3,006 38
H11 6 119(96・23) 127(67・58・2) 2,739 34
H10 5 139(108・31) 150(74・71・5) 3,134 36
H09 4 138(110・28) 151(82・67・2) 3,144 37
H08 3 151(124・27) 170(80・86・4) 2,835 34
H07 2 104( 93・11) 114(50・59・5) 1,938 34
H06 1 108(103・ 5) 130(62・66・2) 2,453 37

お問い合わせ先

〒998-0055 山形県酒田市飯森山2−13(飯森山公園内)
土門拳記念館  文化賞事務局
電話:0234-31-0028

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